Q. はちみつを1歳未満の子どもに与えてはいけないのはなぜ?

今回のご相談
上の子がはちみつを食べるので、下の赤ちゃんにもうっかりあげてしまいそうで心配です。1歳未満にNGなのは知っているのですが、具体的に何が怖いのか、加工品も避けるべきなのか気になります。もし食べてしまったらどんな症状が出るのか、1歳を過ぎれば本当に大丈夫なのかも知りたいです!

A.はちみつは乳児ボツリヌス症を引き起こすリスクがあります。加工品でも避けましょう。便秘などの初期症状に注意が必要です。

ご質問ありがとうございます。

はちみつは自然由来の甘味で栄養もあるため、一見すると赤ちゃんにも良さそうに思えますよね。しかし、1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけません。これは日本小児科学会や厚生労働省をはじめ国内外の小児科専門家が一貫して注意喚起しているポイントです。

この記事では、なぜ赤ちゃんにはちみつが危険なのか、万が一食べてしまった場合に現れるかもしれない症状や受診の目安、治療法と予後、そして1歳を過ぎれば本当にはちみつを食べても大丈夫なのかについて解説します。

なぜ1歳未満の赤ちゃんにはちみつを与えてはいけないの?

はちみつにはごく微量であってもボツリヌス菌(Clostridium botulinum)という細菌の芽胞(がほう:菌の「種」のようなもの)が混入していることがあります。ボツリヌス菌の芽胞そのものは大人が口にしても通常は害を及ぼしません。大人の腸内では他の常在菌たちが競争に勝ち、ボツリヌス菌の芽胞が増殖することはほとんどないためです。

ところが赤ちゃん(特に生後6か月くらいまで)は腸内環境が未熟なため防御力が弱く、芽胞が体内で増えてしまうことがあります。腸の中で増殖したボツリヌス菌が毒素(ボツリヌス毒素)を産生し、それが赤ちゃんの神経に作用すると、筋力の低下や全身のまひ症状を引き起こします。これが乳児ボツリヌス症と呼ばれる病気です。

実際、乳児ボツリヌス症は生後2~6か月の赤ちゃんに多く見られますが、最年少では生後54時間、最年長では生後1年で発症した例も報告されています。まれとはいえ致死的になるリスクのある重い病気のため、「はちみつは1歳を過ぎるまでは与えない」ことが世界中で常識となっているのです。

日本でも1987年に厚生省(当時)から「1歳未満の乳児に蜂蜜を与えないように」と公式に通知が出されており、それ以来一貫して注意が促されています。

クッキーやパンなどはちみつが使われている加工食品は避けたほうがいい?

結論から言えば、はちみつが少しでも含まれる食品は、1歳未満の赤ちゃんには与えないようにしましょう

例えば手作りのパンやクッキーに少量のはちみつを混ぜて焼いた場合でも、通常の加熱調理ではボツリヌス菌の芽胞を死滅させることができません。ボツリヌス菌の芽胞は非常に熱に強く、120℃で4分間の加熱が必要とされるほどです。一般的な調理や加熱ではそこまでの殺菌は難しく、オーブンで焼いた程度では芽胞が生き残る可能性があります。

事実、市販のはちみつ入り飲料やお菓子には「1歳未満の乳児には与えないでください」という注意表示がされています。ごくわずかな量であってもリスクをゼロにはできませんので、赤ちゃんが満1歳の誕生日を迎えるまでは、はちみつそのものはもちろん、はちみつ入りの加工食品も避けるのが安全です。

もしうっかり食べてしまったら?症状と受診の目安

育児に忙しい日々、うっかり赤ちゃんにはちみつ入りの食べ物を与えてしまうミスは誰にでも起こりえます。万が一1歳未満の赤ちゃんがはちみつを口にしてしまった場合でも、まずは落ち着いて様子を観察してください。

実際には、はちみつにボツリヌス菌の芽胞が必ず含まれているわけではなく、摂取しても必ず発症するとは限りません。すぐにできる特別な解毒方法もないため、焦って何かする必要はありません。大切なのは今後の経過に注意することです。

乳児ボツリヌス症の症状は主に次のようなものがみられます。

  • 便秘(急にうんちの回数が減る、まったく出なくなる)
  • 元気がなくなる(いつもより機嫌が悪い、眠ってばかりいる、抱っこしてもぐったりしている)
  • 哺乳力の低下(母乳やミルクをうまく飲めなくなる)
  • 泣き声が弱々しくなる(泣き方が力なく小さくなる)
  • 首や体の筋力低下(首がすわっていた子もグラグラになる、全身に力が入らない)

初期症状として現れやすいのが便秘です。その後、授乳の飲み込みが悪くなったり泣き声が弱くなったりといった変化が見られ、進行すると全身の筋力が低下していきます。

重症化すれば呼吸する力まで奪われ、命に関わる状態になることもあります。こうした症状は、はちみつを食べてから3日~30日ほど潜伏期間を経て現れることがあります。1つでも当てはまる様子が見られたら、ためらわず早急に小児科を受診してください。

特に「おかしいな」と感じる便秘や筋力低下の兆候は見逃さず、医師に伝えましょう。乳児ボツリヌス症は診断が難しく見逃されることもある病気ですが、保護者がお子さんの異変に早めに気付き受診することが何より重要です。早期に適切な治療を受ければ、ほとんどの赤ちゃんは数週間から数ヶ月で完全に回復します。

なお、はちみつを食べてしまった直後に病院へ行っても、症状が出ていない段階では特別な検査や処置ができない場合もあります。

「もしかして食べちゃったかも…」と不安なときは、まず電話でかかりつけ医に相談すると良いでしょう。医師の指示を仰ぎつつ、上記のような症状がないか注意深く見守ってあげてください。少しでも「変だな」と思う点があれば早めに受診し、自己判断で様子を見過ぎないことが大切です。

1歳を過ぎたら本当にはちみつを食べても大丈夫?

1歳を過ぎれば一般的にはちみつを食べても大丈夫です。赤ちゃんの腸内環境や抵抗力は生後12か月頃までに発達し、ボツリヌス菌が体内で増殖しにくくなるためです。

実際、1歳以上ではちみつはリスクの高い食品ではないと日本の厚生労働省も明言しています。アメリカ小児科学会(AAP)も「はちみつは1歳以上の子どもであれば安全」だと述べており、国際的にも1歳を区切りにして制限を解除する見解で一致しています。

ただし、1歳のお誕生日を迎えた直後に急いで与える必要はありませんし、アレルギーなど別の注意点もありますので、あくまで赤ちゃんの発達ペースに合わせてゆっくり進めてください。

はちみつそのものは栄養豊富ですが、与えすぎれば糖分の過剰摂取にもなりえます。1歳を過ぎた後も、あくまで適量を守り、赤ちゃんの健康に配慮しながら取り入れていきましょう。


■回答してくれたのはこの方■

濵野 翔 はまの しょう 先生

杏林大学医学部卒。小児科医。アレルギーと呼吸器を専門とした小児科「ベスタこどもとアレルギーのクリニック」院長。


関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。